簡単解説 表記が多くややこしいAES
音響機器でAESという表記を見かけたことはありますか?
AESとはオーディオのデジタル伝送規格のことですが、機器によって表記が異なる場合が多く、使用するケーブルにも決まりがあったりと複雑です。
この記事では、表記が多くわかりづらいAESをできるだけ簡単にまとめました。
現場レベルでは「AESで繋いどいて」とだけ言われることがあり、実際どんなコネクター・ケーブルを使えばいいかは各自で判断する必要があります。
ほとんど業務機器でしか見かけることはありませんが使い方を知っておき、いざ使いたい時に間違えないようにしましょう。
2種類の規格「AES/EBU」と「AES-3id」
音響機器で使われるデジタルオーディオ規格のAESは、大きく分けて2種類です。
実際には別の規格なのですが、現場ではどちらも「AES」と呼ばれちゃってます。
頭を整理しやすいよう表にしましたので、ひとつづつ解説していきます。
規格 | AES/EBU | AES-3id |
---|---|---|
表記 | AES/EBU AES3 | AES-3id |
伝送方式 | バランス伝送 | アンバランス伝送 |
ケーブルのインピーダンス | 110Ω | 75Ω |
コネクター | XLR3ピン D-Sub | BNC |
表記
先ほど2つは別の規格と説明しましたが、それがそのまま表記にも現れています。
1つ目の規格は「AES/EBU」です。「AES3」と表記されていることもあります。
AESとEBSという2つの団体によって規格化されたものなので、団体名がそのまま規格名になっています。
AES3はAESが当時制定した規格名「AES3-1985」の頭文字を取ったものです。
その後規格は改良されて、今の標準は「AES3-1992」になっています。
もう1つの規格は「AES-3id」です。
こちらもAESが作ったものですが、AES/EBUを使うとシステムが高価になるため、安価な同軸ケーブルを使えるようにしたものになります。
どちらも同じ団体の名前が入っていてややこしいですが、表記を見ればどういったケーブルやコネクタを使えばいいのかが判断できます。
バランス/アンバランス
2つは信号の伝送方式が異なります。
- AES/EBUはバランス伝送
- AES-3idはアンバランス伝送
となります。
機器によっては「Digital Balanced」や「Digital Unbalanced」と表記されることもあるので覚えておきましょう。
アナログオーディオケーブルのバランスと同様、デジタルのバランス伝送も3線で伝送するものです。
ただし注意しなければならないのは、アナログケーブルと違ってデジタルの場合は、アンバランスの方が長距離伝送に向いています。
デジタルでは安価な同軸ケーブルを使って引き回すためにアンバランス伝送のAES-3idが制定されたため、長距離伝送はアンバランス伝送の方が向いているのです。
ちなみにアナログで長距離伝送に向いているのがバランス伝送なのは、ノイズに強いとされているからです。
ケーブルインピーダンス
2つの規格それぞれでケーブルのインピーダンス(抵抗)が異なります。
デジタル伝送の場合はこのインピーダンスが重要なので、それぞれ覚えておきましょう。
- AES/EBUは110Ω
- AES-3idは75Ω
AES-3idの75Ωですが、映像を伝送するSDIケーブルも同様の75Ωのものを使っています。
放送局では、映像も音声(デジタル)も同じ75Ω同軸ケーブルを使うことができるので、コスト削減になります。
映像用のビデオパッチ盤もそのままデジタル音ß声用のパッチ盤として使用することができます。
AES/EBUの110Ωケーブルは比較的高価で、距離は100m程度と制限があるので注意しましょう。
一般的にはデジタルオーディオケーブルを使うことが多いですが、実は照明用のDMXケーブルも同じインピーダンスなので代用することが可能です。
現場でデジタルケーブルがなく、照明屋さんが近くにいるようなら相談してみましょう。
ちなみにLANケーブルのインピーダンスは100Ωとデジタルオーディオケーブルと比較的近いので、代用できるかもしれません。
こちらは試したことがないので、上手くいくかわかりませんが。。。
少し脱線しましたが、デジタルオーディオ伝送では規格にあったインピーダンスのケーブルの選定が重要です。
コネクタ
AES/EBUでは一般的にはXLR3ピンコネクターが使用されます。
高価な音響機器で入出力が多いものだと、D-Subタイプが使われることもあります。
注意して欲しいのは、XLRコネクターだからと言って普通のマイクケーブルを使わないようにしてください。
機器に接続はできますが、ケーブルインピーダンスが違うので音は出ても正しい伝送はできていません。
AES-3idではBNCコネクタが使用されます。
RCAのデジタル端子を見たことがある人は多いと思いますが、それはS/PDIFという民生用デジタルオーディオの規格なのでAESとは別物と考えてください。
実務での取り扱い
ここまで2つの規格の違いを説明して来ました。
ここからは、実際現場でどのように取り扱っているのかを紹介します。
インピーダンス変換器
長距離伝送の場合、先に説明した通りAES3-id規格で75Ω同軸ケーブルを引き回すことになります。
しかし、入出力機器自体が、AES/EBUの端子しか持っていないはどうすれば良いでしょうか?
単にコネクタだけ変換してもインピーダンスが異なるので、正しく伝送はできません。
そこで、インピーダンスとコネクタの両方ともを変換する必要があります。
CANAREの「110Ω-75Ω インピーダンス変換器」を使って、XLRとBNCを変換して使うことが一般的です。
デジタル入出力が多い業務用機器で、コネクタがD-subの場合は、D-Sub→XLRのブレイクアウトケーブルを使ったり、専用変換器でD-SubからBNCに変換して信号を伝送します。
実はこの変換器や変換コネクタは大変高価なものなので、大切に使うようにしましょう。
余談ですが、変換コネクタのことを鉄砲玉と呼ぶ人もいますね。
過去に現場で「鉄砲玉転がしといて」と言われた時は何のことかわからなかったものです。。
呼び方
これまで説明して来た通り、AES/EBUとAES-3idの2つは規格が異なるのですが、現場では両方「AES」とだけ呼ばれます。
ほとんどの場合は、AES/EBUのことを指しているので、XLRデジタルオーディオケーブルを用意していくのですが、稀にBNCでしか接続できない機器に出逢います。
あらかじめ使用する機材を確認しておき、予備で何種類かインピーダンス変換コネクタを用意しておくことをオススメします。
AES67
ここまでAES/EBUとAES-3idの2つのデジタルオーディオ規格について説明して来ました。
しかし、まだAESと名の付く規格が存在します。
そのうち近年見かけるようになったのがネットワークオーディオ規格AES67です。
これもある意味ではデジタルオーディオなのですが、IPを用いて音声伝送を行う、AoIP分野の規格です。
AES67のことをAESと呼ぶ人は見たことがありませんので、ここまで説明してきたデジタルオーディオ規格とごっちゃになることはないでしょう。
字面だけ見るとAESと入っているので、混乱してしまうかもしれませんが全く別分野の規格になります。
AoIP分野については、またの機会に紹介したいと思います。
まとめ
この記事では、音響用語のAESという言葉の意味を解説しました。
一般的にAESとだけ言うと、デジタルオーディオ規格のAES/EBUを指すことが多いです。
しかし実際にはAES/EBUとAES-3idの2つの規格のことを意味しており、その2つの違いを把握しておくことが重要です。
2つの規格の違いについては表でまとめていますので、参考にしてみてください。
規格 | AES/EBU | AES-3id |
---|---|---|
表記 | AES/EBU AES3 | AES-3id |
伝送方式 | バランス伝送 | アンバランス伝送 |
ケーブルのインピーダンス | 110Ω | 75Ω |
コネクター | XLR3ピン D-Sub | BNC |
この記事が誰かの参考になれば幸いです。